第2章 潮位
2.1 潮位の基本
潮位は、天文潮及び気象潮、波による水位上昇並びに津波等による異常潮位を考慮して、実測値又は推算値に基づいて、工事用基準面からの水位を適切に設定するものとする。
潮位は、天文潮、気象潮、津波等により変動することから、漁港・漁場の設計に際して、これらを考慮する必要がある。
2.1.1 天文潮
月と太陽の万有引力によって引き起こされる潮汐を天文潮というが、設計に用いる潮位として、次の①〜④を求める必要があり、1ケ年以上の潮位記録を基に各潮位を求めることを原則とする。
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平均水面 M.W.L.(Mean Water Level)又は M.S.L.(Mean Sea Level) — ある期間の海面の平均高さに位置する面をその期間の平均水面という。実用上は1ケ年の潮位を平均して平均水面とすることを原則とする。
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最低水面 C.D.L.(Chart Datum Level) — 最低水面は海図における水深の基準面で、水路業務法施行令第一条に基づいて海上保安庁長官が公示している。以前は、最低水面のことを基本水準面と呼んでいたが、平成14年4月1日の水路業務法の改定に伴い、現在は基本水準面という用語は使用されていない。最低水面は平均水面から主要4分潮である主太陰半日周期 M₂、主太陽半日周期 S₂、日月合成日周期 K₁、主太陰日周期 O₁ の半潮位差の和又はほぼそれに等しい高さだけ平均水面から下げた面である。
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朔望平均満潮面 H.W.L.(mean monthly Highest Water Level) — 朔(新月)、望(満月)の日から前2日、後4日以内に現れる各月の最高満潮面を平均した水面である。
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朔望平均干潮面 L.W.L.(mean monthly Lowest Water Level) — 朔(新月)、望(満月)の日から前2日、後4日以内に現れる各月の最低干潮面を平均した水面である。
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東京湾平均海面 T.P.(Tokyo Peil) — 東京湾における平均水面。国土地理院の地形図における高さの基準として用いられている。
2.1.2 気象潮
高・低気圧の通過に伴う気圧変動や風などの気象に起因する海面の水位変化を気象潮という。この中で台風や低気圧の通過時に潮位が異常に高まる現象を高潮あるいは偏差という。高潮及び偏差の数値設定は、少なくとも過去30年以上にわたる観測記録に基づき検討を行うことが望ましいが、観測記録がない場合には、気象条件から数値解析により推算したり、高潮災害報告、古文書等の既往災害資料を併用して、出来るだけ長期間の高潮について検討をするのがよい。
2.1.3 津波
津波については、「2.4 津波」に記述。
2.1.4 副振動
副振動については、「2.5 副振動」に記述。
2.1.5 既往最高潮位
過去において示した最高の潮位である。天文潮のみに起因せず高潮、津波、洪水等の影響を受けた潮位である。
図 2-2-1 基本水準面と各潮位の関係
2.2 設計潮位
設計潮位は、構造物にとって最も危険となる作用が生じる潮位であり、天文潮及び気象潮並びに津波等による異常潮位の実測値又は推算値に、気候変動による気象の状況及び将来の見通しを勘案して必要と認められる値を加えたもののうちから、当該漁港施設の利用状況等を考慮して漁港管理者等が総合的に判断して適切に定めることを原則とする。
2.2.1 設計潮位
設計潮位は、対象とする構造物の目的によって異なる。また、目的を同じくする構造物においても、その施設の機能や構造安定の検討により設計潮位が異なる。例えば、護岸の設計において、天端高は越波量により決定されるので、越波量が最大となる潮位を設計潮位とするが、構造物の安全性に関する性能照査にあたってはより低い潮位でより危険となる場合があり、このときは原則としてその潮位を設計潮位とする。
設計潮位として、既往の観測データや背後施設の重要度等を勘案して以下に示すものが挙げられる。
- 既往の最高潮位(H.H.W.L.)
- 朔望平均満潮面(H.W.L.)+最大潮位偏差 — 高潮又は砕波による水位上昇が推定される水域では、必要に応じて適切な偏差を加える。
- 朔望平均満潮面(H.W.L.)
- 朔望平均干潮面(L.W.L.)
既往最高潮位(H.H.W.L.)や朔望平均満潮面等の潮位は、一般に天文潮及び気象潮の過去の変動記録から定めているが、観測データ数の不足、特殊な地形条件等の理由により過去の潮位の変動記録によりがたい場合は、既往の台風、低気圧等の異常気象に基づき、適切な数値解析や推算式によって算定してもよい。また、高潮と津波は同時生起確率が極めて低いことから、設計潮位の決定にあたっては同時に発生しないものとして設計潮位を決定することを標準とする。
設計潮位の決定にあたっては上記の実測値又は推算値に、気候変動による気象の状況及び将来の見通しを勘案して必要と認められる値を加えたもののうちから、当該漁港施設の利用状況等を考慮して漁港管理者等が総合的に判断して適切に定めることを原則とする。
2.2.2 最大潮位偏差
最大潮位偏差は、既往の検潮記録偏差あるいはモデル高潮による推定最大偏差とし、その設定にあたっては、実測期間や生起頻度を考慮する必要がある。施設の重要性に応じて若干の余裕高を加えたり、経済性を考慮して朔望平均満潮面と同時に起こる確率に応じて補正してもよい。
2.2.3 気候変動の潮位への影響
日本沿岸の平均海面水位については、1980年以降で上昇傾向にあり、将来の見通しとして、21世紀中に上昇することが予測されている。緯度による差、地盤沈下、プレートの沈み込み等の影響により、地球平均での海面上昇量がそのまま各地域で実現されるわけではなく、海面上昇には地域的な要素もある。高潮の発生頻度については、年によって一定でなく変動がみられるが、将来の見通しとして、多くのケースで台風が強くなり、東京湾、大阪湾、伊勢湾の高潮(高潮偏差)が増大するとの事例研究が報告されている。また、岸壁の天端等は利用上の観点から余裕高を小さく定めていることもあり、施設の整備にあたって留意する必要がある。
2.3 工事用基準面
工事用基準面は、原則として最低水面とする。
工事用基準面は、漁港・漁場の施設の設計に使用するのみならず、調査、計画、工事等を実施する場合に基準の高さとして使用するものである。漁港・漁場の施設の大半が漁船の利用を対象としていることから、船舶の航行上必要な水深の確認が容易な最低水面(海図の水深の基準面)を工事用基準面とすることにより、漁港・漁場の施設の調査、計画、設計、工事等の円滑な推進を図るのが望ましい。
なお、漁港の施設には、集落道、漁港関連道等のように陸上に設置される構造物もあることから、東京湾平均海面(T.P.)と工事用基準面との関係を明らかにしておく必要がある。さらに、場所によっては地震等による急激な地盤変動や地下水汲み取り等による長期間にわたる地盤高の変化があることから、常に地盤の高さについては注意を払う必要がある。
2.4 津波
津波については、「第5章 津波」を参照する。
2.5 副振動
副振動の発生が考えられる場合には、副振動の卓越周期、振幅、流速等について十分に検討する必要がある。
2.5.1 副振動
潮汐、高潮、津波以外に周期数十秒から数十分の長周期の振動が、湾(港)内で発生することがある。この現象は副振動(「セイシュ」あるいは地域により「よた」「網引き」等)と呼ばれ、サーフビート、長周期のうねり、高潮、潮流等により発生すると考えられている。漁港内における副振動の周期は、港内の広さ及び形状や波浪条件により異なるが、数分程度であることが多い。副振動が発達すると、波高が小さいにもかかわらず副振動の節の部分で強い流れが生じ、漁船の航行、係留に支障をきたすことがある。また、高波浪時に港外の発生振動と港内の固有振動がほぼ一致した場合には、船舶の係留索の切断、船体動揺による転覆、係留施設の冠水及び陸上施設の浸水が発生する等大きな被害が生じることもある。
外郭施設、係留施設、水域施設等の建設後に副振動対策を講じることは困難な場合が多いことから、施設配置計画段階において泊地の形状等を十分に検討する必要がある。
2.5.2 固有振動周期
副振動は、長方形型の形状をした湾(港)において比較的発生しやすいと言われており、湾(港)口が節となり湾(港)奥が腹となる。長方形型と仮定した港における固有振動周期は式 2-2-1 で近似できる。
ここに、
- : 固有振動周期(s)
- : 港の奥行き(m)
- : 節の数(1, 2, …)
- : 港の平均水深(m)
- : 重力加速度(m/s²)
なお、港内のみならず港口付近の外海部も振動することから港口による影響を加味した固有振動周期の補正を式 2-2-2、式 2-2-3、表 2-2-1 及び図 2-2-2 により行う。
ここに、: 港の幅(m)
表 2-2-1 補正係数 α の値
| b/ℓ | 1 | 1/2 | 1/3 | 1/4 | 1/5 | 1/10 | 1/20 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| α | 1.320 | 1.261 | 1.217 | 1.187 | 1.163 | 1.106 | 1.064 |
図 2-2-2 港の形状
2.5.3 副振動対策
副振動の振幅を抑えるには、港外から侵入してきた「うねり」を港の内周で不完全反射させる、又は何らかの方法で港内でのエネルギー損失を増大させる必要がある。そこで、副振動対策としてこれまでに行われてきた方法としては、港内に発生する流れを緩和したり、固有振動周期を変化させるために、
- 防波堤沖出しや沖防波堤を設置する
- 港内に突堤を設置する
- 港内流入水の排出口を設ける
- 直立護岸(岸壁)を改良し、消波護岸(岸壁)にする
- 対象泊地の入口に水門(可動式防波堤又は防波水門)を設置する
等がある。⑤の場合、漁港における漁船等の利用形態や背後施設の重要度等を検討するとともに、これまで行われてきた対策との機能性や経済性の比較を行う必要がある。この構造型式としては、ローラーゲート式、起伏ゲート式、膜式(水圧により膜を膨張させて閉鎖する方式)等があるが、図 2-2-4 にローラーゲート式の概略図を示す。
図 2-2-3 副振動対策の例
図 2-2-4 水門(可動式防波堤又は防波水門)におけるローラーゲート式の概略図