第3章 波

3.1 波の基本

構造物の安全性に関する性能照査に用いる波は、波の不規則性及び多方向性並びに各種変形現象(屈折、回折、反射、浅水変形、砕波等)を考慮し、想定する再現期間に対応した波高、周期及び波向を適切に設定するものとする。

静穏度の照査に用いる波は、当該漁港を利用する漁船の諸元、漁業形態及び漁業海域の海象等を考慮して、波高、周期及び波向を適切に設定するものとする。

漁港・漁場の施設の設計に用いる波は、波の不規則性及び多方向性並びに各種変形現象を考慮するとともに、有義波で代表することを原則とする。

3.1.1 波の概要

波は、不規則性、多方向性(方向分散性)、非線形性、分散性を有するとともに、施設や海底地形などの影響を受けて、屈折、回折、反射、浅水変形、砕波などといった変形現象を生じる。また、防波堤や護岸などでは、透過、越波、波の打ち上げなどが起こる。

3.1.2 不規則な波を取り扱う方法

不規則な波を取り扱う方法として、以下に示すように5つの方法が挙げられる。

  1. 単一有義波法 — 不規則な海の波を波高と周期が有義波の諸元に等しい規則波で代表させ、その規則波の変形を理論又は実験で求めて海の波の変形を推定する方法。
  2. 単一最高波法 — 不規則な海の波を波高と周期が最高波の諸元に等しい規則波で代表させる方法。
  3. 確率分布法 — 不規則な波群中の一波一波をそれぞれ規則波で近似し、その結果を各波の出現率を考慮して加え合わせる方法。
  4. 不規則波実験法 — 不規則波造波機を用いて、直接不規則波による実験を行って定める方法。
  5. スペクトル法 — 波のスペクトルを用いて解析する方法。

3.1.3 波の諸元

設計に用いられる波の諸元は次の通りである。

  1. 波高、周期、波長(HH, TT, LL — 波を正弦波形を持つ進行波とすると、波高とは、一つの波の山の頂き(波峰)と波の谷までの高さの差であり、周期とは、1点で一つの波峰が現れてから、次の波峰が現れるまでの時間である。波長とは、波の進行方向に測った一つの波峰から次の波峰までの水平距離である。
  2. 有義波(H1/3H_{1/3}, T1/3T_{1/3} — ある波群中で波高の大きい波から数えて、全体の波の数の1/3の数の波を選び出し、それらの波高及び周期の平均値に等しい波高及び周期を持つ仮想的な波をいう。
  3. 最高波(HmaxH_{max}, TmaxT_{max} — ある波群中で最大の波高を示す波をいう。
  4. 沖波(H0H_0, T0T_0 — 水深が波長の1/2以上の深海域における波で有義波の諸元で表す。
  5. 換算沖波波高(H0H_0' — 沖波が浅海を進行する際に受ける波の屈折、回折などの変化を考慮した仮想的な有義波高であり、有義波高で表す。
  6. 波向 — 波が向かってくる方向であり、一般に真北を基準として東回りに16方位で表す。

3.1.4 波の理論

一般的に、微小振幅波理論を用いて波の変形現象を取り扱うことが多い。しかし、水深が浅くなり波の波形勾配が大きく非線形性の影響が顕著となる場合は、有限振幅波理論を考慮した取り扱いが必要となる。

微小振幅波は、エアリー(Airy)波ともよばれ、波の基本的な性質を考える際に用いる。波高 HH、周期 TT を有する正弦波であり、進行波かつ2次元断面(xx, zz)の場合について微小振幅波の概要を示す(図 2-3-1)。

図 2-3-1 波の諸元及び座標系の定義

a) 波形 η\eta

η=H2sin(kxσt)(式 2-3-1)\eta = \frac{H}{2}\sin(kx - \sigma t) \tag{式 2-3-1}

b) 水粒子速度(uu, ww

u=Hσ2coshk(h+z)sinhkhsin(kxσt)(式 2-3-2)u = \frac{H\sigma}{2}\frac{\cosh k(h+z)}{\sinh kh}\sin(kx - \sigma t) \tag{式 2-3-2}
w=Hσ2sinhk(h+z)sinhkhcos(kxσt)w = -\frac{H\sigma}{2}\frac{\sinh k(h+z)}{\sinh kh}\cos(kx - \sigma t)

c) 水粒子の軌跡(xx, zz

xx0=H2coshk(h+z0)sinhkhcos(kx0σt)(式 2-3-3)x - x_0 = \frac{H}{2}\frac{\cosh k(h+z_0)}{\sinh kh}\cos(kx_0 - \sigma t) \tag{式 2-3-3}
zz0=H2sinhk(h+z0)sinhkhsin(kx0σt)z - z_0 = \frac{H}{2}\frac{\sinh k(h+z_0)}{\sinh kh}\sin(kx_0 - \sigma t)

d) 単位面積当たりの波エネルギー

E=18ρgH2(式 2-3-4)E = \frac{1}{8}\rho g H^2 \tag{式 2-3-4}

e) 群速度 CgC_g(波のエネルギーの輸送速度)

Cg=nC(式 2-3-5)C_g = nC \tag{式 2-3-5}

f) 単位時間単位幅当たりの波のエネルギーの輸送量

W=ECg=18ρgH2nC(式 2-3-6)W = EC_g = \frac{1}{8}\rho g H^2 nC \tag{式 2-3-6}

g) 水中の任意点での水圧

p=ρgH2coshk(h+z)coshkhsin(kxσt)ρgz(式 2-3-7)p = \frac{\rho gH}{2}\frac{\cosh k(h+z)}{\cosh kh}\sin(kx - \sigma t) - \rho gz \tag{式 2-3-7}

ここに、kk: 波数(=2π/L= 2\pi/L)、LL: 波長(m)、σ\sigma: 角周波数(=2π/T= 2\pi/T)、tt: 時間(s)、hh: 水深(m)、ρ\rho: 海水の密度(t/m³)、gg: 重力加速度(m/s²)、nn: 波速と群速度の比、CC: 波速(m/s)

3.1.5 不規則な波形に対する波高、周期、波長の定義

波浪観測データをゼロ・アップ・クロス法により算出した波高の出現分布は、レーリー分布として取り扱うことができる(砕波帯ではレーリー分布は成立しないことに注意)。このレーリー分布を仮定すると、各波高間の関係は次の通りとなる。

H1/3=1.60Hˉ,H1/10=1.27H1/3=2.03Hˉ,Hmax=H1/3/1.42,Hmax=(1.62.0)H1/3(式 2-3-8)H_{1/3} = 1.60\bar{H}, \quad H_{1/10} = 1.27H_{1/3} = 2.03\bar{H}, \quad H_{max} = H_{1/3}/1.42, \quad H_{max} = (1.6 \sim 2.0)H_{1/3} \tag{式 2-3-8}

周期については、以下の関係が近似的に成立する。

T1/3=T1/10=Tmax=1.2Tˉ(式 2-3-9)T_{1/3} = T_{1/10} = T_{max} = 1.2\bar{T} \tag{式 2-3-9}

レーリー分布は式 2-3-10 で表される。

p(H/Hˉ)=π2HHˉexp(π4(HHˉ)2)(式 2-3-10)p(H/\bar{H}) = \frac{\pi}{2}\frac{H}{\bar{H}}\exp\left(-\frac{\pi}{4}\left(\frac{H}{\bar{H}}\right)^2\right) \tag{式 2-3-10}

図 2-3-2 波高、周期の決定方法

図 2-3-3 波高の相対度数分布及びレーリー分布曲線

3.1.6 有義波

有義波は、波高、周期の不規則な波群を代表する仮想的な波であり、波浪観測技術が乏しかった時代に行われていた目視観測の波群中の最大波高を平均した値にほぼ等しいこともあり、海洋における施設の設計において古くから用いられてきた。

3.1.7 1/n 最大波及び平均波

不規則波群中の個々の波を算定し、波高の大きい上位 1/n(n=3n=3 の場合には有義波)を選び出して算術平均したものを1/n最大波(H1/nH_{1/n}, T1/nT_{1/n})といい、全波高を算術平均したものを算術平均波(Hˉ\bar{H}, Tˉ\bar{T})という。

3.1.8 最高波及び極大波

最高波は、観測された一連の波群の中で波高が最大である波をさしたものである。

3.1.9 不規則波の代表値の関係

(1) 波の統計的性質

波浪観測データをゼロ・アップ・クロス法により算出した波高の出現分布は、レーリー分布として取り扱うことができる。

(2) 波のスペクトル

多方向不規則波のスペクトルは、周波数スペクトル S(f)S(f) と方向関数 G(θ,f)G(\theta, f) の積として表現される。周波数スペクトルとしては、ブレットシュナイダー・光易型スペクトルが式 2-3-11 で表される。

S(f)=0.258H1/32T1/34f5exp[1.03(T1/3f)4](式 2-3-11)S(f) = 0.258H_{1/3}^2 T_{1/3}^{-4} f^{-5} \exp[-1.03(T_{1/3}f)^{-4}] \tag{式 2-3-11}

方向関数は、光易型方向関数を示す。

G(θ,f)=G0cos2S[(θθ0)/2](式 2-3-12)G(\theta, f) = G_0 \cos^{2S}[(\theta - \theta_0)/2] \tag{式 2-3-12}

図 2-3-4 周期による海の波の分類

3.1.10 換算沖波

換算沖波とは、設計沖波が屈折、回折等によって変形した後の波を称したもので、設計計算上の仮想である。

3.1.11 波向

沖波の波向に関し、構造物への影響を考える際に特に重要となるのは、波の主方向である。

3.1.12 周期による海の波の分類

海面に生じている波(表面波)には、周期が0.1秒程度の表面張力波、数秒から数十秒の風波、数分から数十分の長周期波、潮汐などがある。

3.1.13〜3.1.18 その他の波の性質

内部波、水深による波の分類、進行波及び重複波、波の変形、波の取り扱い、平面波浪場の解析モデルについては、それぞれの特性を理解した上で設計に適用する。

表 2-3-1 代表的な平面波浪場の解析モデルの概要

解析モデル浅水変形屈折回折多重反射砕波多方向不規則性特記事項
エネルギー平衡方程式×定常状態の解析法。一次反射は考慮可能
高山の方法×××定常状態の解析法。水深を一定とした簡便法
非定常緩勾配方程式 数値波動解析法規則波の時系列解析法
非定常緩勾配不規則波動方程式多方向不規則波の時系列解析法
ブシネスク方程式多方向不規則波の時系列解析法。弱非線形性及び弱分散性を考慮

◎: 基本形で適用可能 ○: 応用形で一般的に適用可能 ×: 適用不能 ▽: 基本理論では考慮されていないが実用上可能

3.2 設計に用いる波の決定方針

漁港・漁場の施設の設計波は、沖波を算定した上で沖波算定地点から設計対象施設までの波浪変形現象を考慮するとともに、施設に最も大きな影響を与える波を採用することを原則とする。

3.2.1 推算値及び実測値の取り扱い

波浪の推算値は実測値を補完する資料である。気象資料から波浪を推算する場合、洋上の風を正確に推定することが難しいため、その精度には限界がある。

3.2.2 モデル台風

近年では波浪のエネルギー平衡方程式に基づく数値モデルを台風時に適用して、台風による高波浪を推算する方法が用いられるようになっている。

3.2.3 設計波の算定手順

設計波の算定手順は、一般に図 2-3-5 にしたがってよい。

図 2-3-5 設計波の算定手順の例

3.2.4 設計波を算定する際の留意点

設計沖波は、一般的に海底の影響をほとんど受けない深海波(水深が波長の約1/2よりも大きい水域の波)である。

3.3 設計沖波の算定

3.3.1 沖波の諸元と推定方法

設計沖波の諸元については、信頼すべき実測値が得られる場合、これらの実測値を統計的に処理して算定することを原則とする。

(1) 波向 — 波向は、実測値又は推算値を用いるいずれの場合においても、構造物に大きな影響を与えると考えられる方向について求める。

(2) 設計沖波算定方法の現状 — 漁港の場合、長期間にわたる波浪の現地観測を行っている箇所が少なく、天気図や気象データから風と波を推算し、極値統計解析によって確率波を算定することが多い。

(3) 推算方法 — 波の推算方法は一般に経験公式に基づくもの、有義波法によるもの、波浪スペクトル法によるものに大別される。

3.3.2 波の観測・算定データの統計処理

設計沖波は、相当長時間の信頼すべき資料に基づき、統計処理を行い、波の発生確率を推定して、再現期間に対応する波として算定することを原則とする。

(7) 極値波高の統計処理(極値統計解析)

未超過確率は式 2-3-13 で計算される。

P[Hxm,N]=1mαN+β(式 2-3-13)P[H \leq x_{m,N}] = 1 - \frac{m - \alpha}{N + \beta} \tag{式 2-3-13}

表 2-3-2 未超過確率計算のためのパラメーター

分布関数αβ
グンベル分布0.440.12
ワイブル分布(k=0.75)0.540.64
同上(k=0.85)0.510.59
同上(k=1.0)0.480.53
同上(k=1.1)0.460.50
同上(k=1.25)0.440.47
同上(k=1.5)0.420.42
同上(k=2.0)0.390.37
トーマスプロット0.001.00
ハーゼンプロット0.500.00

遭遇確率は式 2-3-18 で計算できる。

E1=1(11T1)L1(式 2-3-18)E_1 = 1 - \left(1 - \frac{1}{T_1}\right)^{L_1} \tag{式 2-3-18}

3.3.3 設計沖波の点検・見直し

波浪の長期的変動傾向や既往の波浪推算手法の有用性等を考慮し、定期的に設計沖波の点検(簡易・詳細)を行い、必要に応じて設計沖波の見直しを行うことが望まれる。

図 2-3-6 設計沖波の点検・見直しの手順

3.4 換算沖波の算定

3.4.1 換算沖波算定の基本

換算沖波は、沖波算定地点から設計対象施設までの波の不規則性及び多方向性並びに屈折、回折、反射を考慮して算定することを基本とする。

(4) 方向集中度パラメーター SmaxS_{max}

図 2-3-6 方向集中度パラメーターと沖波波形勾配の関係

図 2-3-7 屈折による SmaxS_{max} の変化

図 2-3-8 方向別エネルギー累加曲線

3.4.2 屈折による変化

浅海域においては、水深が浅くなるにしたがって波速が減少し、波の屈折現象を生じることから、屈折による波向及び波高の変化を考慮することを原則とする。

屈折係数 KrK_r は式 2-3-22 により算定することができる。

Kr=b0b(式 2-3-22)K_r = \sqrt{\frac{b_0}{b}} \tag{式 2-3-22}

3.4.3 回折による変化

島、岬や漁港・漁場の施設等の存在により、波の位相が干渉しあう回折現象を生じる場合、回折による波向及び波高の変化を考慮することを原則とする。

3.4.4 波の反射

島、岬や漁港・漁場の施設等の存在により、波の反射を生じる場合、反射波の影響を考慮することを原則とする。

反射波高は式 2-3-25 で求めることができる。

HR=R×Hi(式 2-3-25)H_R = R \times H_i \tag{式 2-3-25}

図 2-3-9 仮想開口防波堤による反射波の推定

表 2-3-4 反射率の概略値

構造様式反射率
直立壁(天端は静水面上)0.7〜1.0
直立壁(天端は静水面下)0.5〜0.7
捨石斜面(2〜3割勾配)0.3〜0.6
異形消波ブロック斜面0.3〜0.5
直立消波構造物0.3〜0.8
天然海浜0.05〜0.2